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Q&A

意匠の審決取消請求事件、意匠権侵害事件等に関する判決を見ますと、意匠の類否判断の手法において、「要部」という言葉が使われています。扇の要(かなめ)のように意匠の重要な部分ということは理解できるのですが、具体的に詳しく教えてください
 意匠の類否判断において、意匠の「要部」という言葉は、明治時代の大審院判決から今日にいたるまで、意匠の審決、判決の類否判断において、伝統的に使用されています。例えば、平成5年に法曹會から出版された「知的財産権関係民事・行政裁判例概観」には、「意匠の類否の具体的な判断手法としては、意匠に係る物品の同一又は類似を前提とした上で、意匠を見るもの(看者)の注意を強く引く部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部を共通するか否かを基準としながら、両意匠を全体的に観察して視覚的印象の異同により類否を判断しているものが多い。」と述べられています。
 すなわち、「要部」とは、登録意匠を全体的に観察し、物品の性質、用途、使用態様等から、看者の注意を強く惹く部分を指しますので、テレビジョン受像機や冷蔵庫の意匠であればその正面部分が「要部」となり、乗用自動車であれば、フロントビュー、サイドビューが意匠の要部となり、その要部における形態が、類否判断に大きな影響を及ぼすところになります。
 この類否判断の手法は、いわゆる混同説に近い判断手法であり、需要者・取引者(物品の購入者)を基準として、登録意匠と被告意匠(意匠権侵害訴訟の場合)がよく似ていると感じることによって、物品の混同を生じるおそれがあるか否かにより、意匠の類否を判断する手法であり、主に意匠権侵害の類否判断において採用されていました。
 この手法に対して、意匠の審査・審判における判断は、いわゆる創作説、すなわち、意匠法の目的は、意匠の創作の保護にあることから、意匠の類否は新しい形態の価値の創作があったか否かにより判断すべきであるとするもので、設計者・デザイナー等の当業者を基準として、公知意匠と意匠登録出願に係る意匠の美感が共通することをもって「意匠の類似」とするものです。意匠権という権利設定の類否判断において採用されていました。

 したがって、意匠権侵害に係る判決においては、意匠の「要部」がどこかということを決める場合に、物品の性質、用途および使用態様をその認定の指標としています。他方、審査・審判においては、意匠の「要部」は、その意匠の創作が主としてなされているところ、すなわち、形態上の要部又は創作の要部をいうことが通例です。意匠の審査・審判においては、先の意匠の要部を言う場合、「この種の物品の意匠の要部」といい、後者の場合は、「意匠の創作の要部」として区別することもあります。

 ところで、意匠の類否判断は、意匠制度の根幹に係る登録要件や意匠権の効力範囲を定めるものであることから、統一性をもって判断されることが望ましいと考えられ、意匠の類否判断を明確化するために、「意匠の類似」について、最高裁判例(昭和49 年3月19日第3小法廷判決言渡、昭45年(行ツ)第45号判決「可撓伸縮ホース」)において説示されている需要者からみた美感の類否であることを鑑みて、平成18年の「意匠法等の一部改正」において、意匠法24 条2項に「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されました。
 この法改正がなされた際、意匠の類否判断において、公知意匠の存在が軽視されるのではないかとの懸念がありましたが、その後の判決を見ますと、例えば、「登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされ(意匠法24条2項)、その判断に際しては、両意匠を全体的観察により対比し、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、更には登録意匠における公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、登録意匠について、需要者が視覚を通じて注意をひきやすい特徴的部分(要部)を把握し、この特徴的部分を中心に両意匠を対比した上で、両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当であると解される。」(平成24年6月29日判決言渡、平成23年(ワ)第247号、「エーシーアダプタ」)と判示されています。したがって法改正後においては、公知意匠との対比によって、「要部」が把握されることが、判決において明示されており、先の懸念は払拭されています。

 前記の判決において、「特徴的部分(要部)」と記載されていますが、このように記載されているのは、意匠審査基準22.1.3.1「意匠の類否判断」において、「意匠の類否判断とは、意匠が類似するか否かの判断であって、需要者(取引者を含む)の立場からみた美感の類否についての判断をいう。以下に説明する類否判断の手法は、意匠審査における客観的な類否判断を担保するために必要な意匠的特徴、すなわち、意匠の美感を形成する要素の抽出方法と、その対比方法に関する基本的な考え方を示したものである。」との記載に基づくものです。 「意匠の類否判断」に関する審査基準は、「要部」という言葉を使用せずに、「意匠的特徴」という言葉を使用していますので、判決は、括弧書きで「要部」と言い換えたものと推察されます。その他、「看者の注意を強く惹く部分」を「要部」と言い換えることもあります。「意匠的特徴」、「看者の注意を強く惹く部分」、「要部」は、意匠の類否判断において使用されますが、類否判断の全体の流れの中で適切に使用することが肝要です。

 最後に、意匠法24 条2項に「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定された後、意匠の類否判断の手法は、基本的には混同説に立ちながら、意匠の「要部」の認定において、公知意匠を参酌し、公知意匠と比べて新規な創作部分を意匠の要部と見る創作説の手法が採り入れられていますが、この手法については、近年、修正混同説として言及されています。

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